潜行一千里 ILHA FORMOSA
2025 / 79min / ヴィスタ / 5.1ch
新作映画の撮影の為、台湾に潜入した空族
ストリートを彷徨い、音楽を掘るうちに、
たどり着いたのは原住民たちの住む村だった―
『サウダーヂ』(2011)『バンコクナイツ』(2016)など独自の路線で、映画界の裏街道をひた走る映像制作集団「空族」。彼らの映画の最大の特色は徹底したリサーチにある。映画の舞台となる場所を、とにかく歩きそこに住む人々と交流を深める。そして、現地の人々、歴史、そして現在を知るところから映画が始まる。『バンコクナイツ』ではタイ、ラオスで撮影されたが、今回の新作映画(2026年撮影予定)の舞台となるのは麗しの島、台湾。2020年以降、コロナ渦の最中に空族は台湾に幾たびも飛びリサーチを続けてきた。『潜行一千里 ILHA FORMOSA』は、そのリサーチの過程を記録したドキュメンタリーだ。
ストリートに流れる音楽に導かれるように、彼らは台湾原住民たちの住む村に向かっていく。アミ族の住む花蓮県タパロン部落。そこから3000メートル級の中央山脈を越えて辿り着いたセデック族の部落。そして台湾の最南端に位置するパイワン族の村まで。失われつつある原住民の言葉でラップし始める若者たち、原住民の伝統音楽を現代にアップデートして新しい音を生み出そうとするアーティストたち。空族は旅の過程で出会った人々と交流を深めながら、日本も含めた様々な国からの侵略の歴史をも知ることになる。
しかし、過去の歴史をはねのけるように人々は活き活きと踊り、歌い、笑う。フィナーレは毎年タパロンで行われるアミ族最大の豊年祭だ。艶やかな原住民の衣装を纏った人々は三日三晩踊り続ける。台湾の過去と現在、そして未来。時空を超え、ただ私たちはその祝祭に身を委ねるのだ。
メッセージ
この映画のはじまりは空族の前作『典座-TENZO-』(2019)をカンヌ映画祭やマルセイユ映画祭に出品した時に知り合ったフランス在住の台湾人プロデューサー、Vincent Wang(ツァイ・ミンリャン、ワン・ビン作品などをプロデュース)に「お前ら、台湾で映画を撮らないか?」と声をかけられたのがきっかけでした。これまでタイ、ラオス、フィリピンなどアジアで映画を製作してきた空族にとって台湾は親しい友人がいる国ではありましたがカメラを持って撮影したことはない“いちばん近くて遠い国”でもありました。これは千載一遇のチャンス!と、2020年に私たちはまずは台南市に住んでいる友人たちを訪ね、そこを足掛かりに台湾で映画を作るためのリサーチを開始しました。これまで空族は劇映画を製作する前段階のリサーチや旅の道程を『潜行一千里』と称してドキュメンタリー作品として発表してきました。それは所謂メイキングと呼ばれるような劇映画のための記録というよりも、映画製作の準備過程でそれらの国々で学んだ文化や人々の生活、哲学など劇映画では描ききれない部分をドキュメンタリーによって補い、伝えたいとの想いがあったからです。
台湾と言えば私たちには一般的に、大陸との緊張関係に常にさらされている“もうひとつの中国”という中華圏のイメージが強いのですが、原住民の部落に入るとそこには、かつてはオランダ、次に中国大陸、そして日本も含めて数々の強国からの植民地政策を経て、逆にそれらの異文化を取り入れながらも自らの部族とアイデンティティを守り続けている現在の原住民の人々がいました。その原色に彩られた姿は私たちの持っていた中華圏である台湾のイメージを一新し、西洋と東洋の様々な文化の異なる移民たちと、もともと住んでいた原住民たちが長い時間をかけて共に台湾という小さな島でお互いに“共和”の道を模索し歩んでいる姿が浮かび上がってきたのです。
このドキュメンタリーの中で台湾のラッパー、大支(ダーギー)が「台湾の特徴とはさまざまな文化や音楽が融合するところ。そう、メルティングポットなんだ」と語っていますが、特に2020年代から原住民の若者たちが自分たちのルーツミュージックを様々なジャンルの音楽とミックスさせて台湾独自の新しい音楽を創り出しています。そこから何が生まれ出づるのか?まさにこの現在進行形の台湾の姿を観ることはグローバル化、移民の時代を生きる私たち日本人にとっても大きなヒントになることだと考えています。
空族(富田克也・相澤虎之助)
プロフィール
監督:富田克也(とみた かつや)
1972年、山梨県生まれ。脚本家・映画監督の相澤虎之助らとともに映像制作集団・空族(くぞく)を率い、「作りたい映画を勝手に作り、勝手に上映する」をモットーに活動。舞台となる土地での取材を綿密に行い、非職業俳優を積極的にキャスティングすることで、ストリートのリアリティをフィクションに差し込む。
2003年に処女長編『雲の上』、2007年に『国道20号線』を発表。続いて、寂れゆく日本経済を背景に、肉体労働者、移民、ヒップホップをテーマに制作した『サウダーヂ』(2011)がナント三大陸映画祭グランプリ、高崎映画祭最優秀作品賞、毎日映画コンクール優秀作品賞&監督賞をW受賞など数々の賞に輝いた。その後、タイおよびラオスにて長期滞在し撮影を行った『バンコクナイツ』(2016)を発表。20世紀のインドシナ半島での戦争の傷跡をトレースしつつ、複層的な物語構成によって、東南アジアから現代日本を逆照射した本作は、ロカルノ国際映画祭など世界中約30の映画祭に招待。国内では第72回「毎日映画コンクール」にて監督賞、音楽賞をW受賞。2019年には曹洞宗青年会の依頼を受け制作した『典座 -TENZO-』を発表。その年のカンヌ国際映画祭 批評家週間「特別招待部門」に選出された。
クレジット
監督:富田克也 監督補:相澤虎之助 撮影:スタジオ石 録音:中村誠治 整音:山﨑巌、中村誠治 ドライバー:田中隆ノ介 カラーグレーディング:古屋卓麿 編集:富田克也、向山正洋 エクゼクティブ・プロデューサー:石崎尚 プロデューサー:Vincent Wang、筒井龍平 制作進行:蔡信弘、大野敦子、岩井秀世
企画:愛知芸術文化センター 製作:愛知県美術館 共同制作:札幌文化芸術交流センター SCARTS 制作・配給:空族 © kuzoku
日本・台湾/2025年/79分/ヴィスタ/5.1ch




